記憶を呼び覚ます香りがある。いや,その記憶は,現実かもしれない。現実の香りと記憶の香りは同じもので,現実と同じ記憶の香りと,記憶の香りと同じ現実の記憶が…。
コティー社がコンピューターの香りの香水「001コティー」を発売する。この香りは,乾燥機から放出される匂いや,開けたばかりコンピューターの箱からの匂いから完成させた。だが5000本だけ限定販売されるこの香水,41ミリリットルの瓶1本が100ドルもする。
フランステレコム社がネットワークで香りを伝える技術を公表しているという,MYCOM PC WEBの記事を読んだ。そういえば以前にもそんな話があったなと思いつつ(過去記事),まだまだ実用化は先だろう。だが,001コティーの記事にあるように,クリスマス電飾の箱の匂いのように,匂いは視覚や聴覚なんて比べ物にならないほど密接に,記憶を紡ぎ出す。ネットワークを,本当にバーチャルなものにするのは,匂いが存在したときかもしれない。
私の部屋には以前使っていたマックがごろごろしているが,なにかの機会に起動させると,異質な匂いが漂ってくる。小さなファンでも空気が流れて,それが部屋の中に匂いを伝える。それぞれの機種ごとに匂いは,違う。ふと,それによって,そのマックを使っていた引っ越し前の部屋が目の前に広がり,そのとき夢中になっていたもの,そのとき考えていたこと,そのとき好きだった人のこと,が頭の中によみがえってくる。目を閉じて,また目を開けると,そのときに戻れるような…。「あっ,戻れるのかな」と思って目を開けると,いつもの部屋の風景があって,今メインで使っているマックでは,今日中に完成させなくちゃいけないテキストファイルが開いている。あのまま,目を閉じて,あの匂いの中に入り込んでいたら,このテキストファイルは,ずっとまた時が来るのを,待っているの,かな?
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